2023/2/1 とんとん
母と父の仕事が休みだったので、午前中から家が賑やかだった。私が起き上がると既に9時頃で、コーヒーを飲むと、母と共に買い物に行った。
お昼は祖母の家で両親と3人でお昼を食べた。私が料理をして、母が掃除機をかけて、父は庭の剪定をしている。その後、両親は家に帰り、私だけ祖母の家で何回か洗濯機を回しながらパソコンを触った。
仏壇の線香の匂いが落ち着くので、今日は何本も火をつけている。祖母が枯らしかけたシクラメンをどうにか復活させようと日向に移動させた。
これから祖母がいない分、私がこの家にいることが増えるだろうが、多分、近所の人に私は無職だと思われている。
昨日は叔父の友人が家を訪ねてきて、就職早く決まるといいですね、と言われた。守るような体裁がないのは気が楽かもしれない。
2023/2/14 フェリーターミナル
昨日、伊豆半島に友人と一泊した。自分の車でずっと運転して帰った翌日の夕方には、大洗から出港するフェリーに乗るために電車に乗っている。自分で決めた日程なのに、誰かに決められているみたいだ。
宿や乗り物の予約は一月中に行っていたので、それに間に合うように体が動いてる。健康。
小山から水戸線に乗り換えて、水戸まで1時間30分ほど電車に乗った。小腹が減ったのでじゃがりことマカロンを食べた。再び乗り換えで、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線という初めて見た電車に乗った。
二両編成に、乗客は10人いるかいないか。古びた赤い電車は、水戸から大洗までの3駅だけ動いている。ぶつぶつと途切れるアナウンス。
車窓は街灯の光とたまに家から漏れる光が見えて、ずっとトンネルの中を走っているかのような音がした。でも、大江戸線とか空港に行くときの地下鉄のキーンとした音とは違う、古い良い音がする。頑張っている何かの音だ。
閑散とした大洗の駅からは、途中コンビニに寄ってフェリーターミナルまで歩いた。大概の人は車で来るようで、人気のない道を20分ほど歩く。風が気持ちよかった。
22時30分になると、徒歩乗船の私を含めた4人が先に乗船した。わたしは4人部屋だったけど、1人だった。
硬いベット、枕、薄い毛布、壁の荷物棚。全てが簡易的で、妙に心地よかった。船が出航するまであと3時間。適当にご飯を食べると、風呂に入った。
24時過ぎ、下の階で大きな音と振動が響き始め、車や貨物車の乗船が始まった。1時30分、車の振動とは異なるベットが揺れる感覚で目を覚ますと、船は港から離れて始めていた。その心地よい疲労感と下船までこのままだという安心感で、すぐに寝入る。
朝5時頃に目が覚めた。再び起きると9時頃だったが、船の揺れがひどくて少し気持ち悪い。船は岩手ら辺を走っている。酔い止めを飲んで寝た。
13時頃に起きて、船の外に行ってみると雪が降っていた。陸地の方は曇っていて分からないが、多分青森らへん。風の冷たさが、寝起きの身体に心地よかった。北へ向かっているという確信を得て、嬉しくなる。カップラーメンを食べて、またベットに横になった。
フェリーの揺れは、胎動に似ている。ぐつんぐつんと底から揺れるような力が人間の臓器のようで、その動きを見つめているといつの間にか眠ってしまう。
この船は年季が入っており、白いレースのカーテンは全て黄ばんでいた。船はよく揺れて、お風呂の湯は忙しなく動いている。
そんな古い客室は少し不気味だったが、その古さがどこか落ち着いた。今までたくさんの人々が大洗から苫小牧に行ったという事実を、さまざまな表情で物語っている。
このフェリーの持つ優しさは、飛行機や新幹線では味合えなかった。広い大海原を時速50キロほどで進むこの健康さが、遠いどこかまで届きそうなものを持っている。
体に合っている。移動とはこのことだ、と誰かが教えてくれる。いつの間にか薄く雪の積もった甲板を見てそう思った。
19時30分頃、予定通りに苫小牧港に着いた。看板に出てみると、目に雪が入った。船を降りる。雪だ!関東の平地のすぐに溶けてしまう雪じゃない、何日も吹き続けている雪!辺りが霞んで、遠くが見えない。
2023/2/15 雪玉
あの緑色だった大地がずっと白い。一年中雪に覆われていると思えるくらい圧倒的で、夏は一瞬の幻だったみたいだ。
苫小牧駅から南千歳駅まで移動して、そこからバスに乗った。出発前、バスの運転手に、何処で煙草吸えますか?と聞くと、みんな好きなところで吸ってるよ!と笑って答えてくれた。
13時過ぎ、帯広駅に着いた。寒いので味の濃いラーメンが食べたくなり、駅から少し離れたところにあるスナック街のラーメン屋に行った。
餃子と醤油ラーメンを頼むと、店主のおじさんが帯広の人じゃないね?と話しかけてくれた。ここまで来た経緯を説明すると、仕事?と聞かれて半分仕事みたいな感じです、と答えた。
すると、変な移動方法やわたしの適当な答え方も相まって店主の人は困惑していた。学生のとき、学生ですと言えば何の疑問も持たれずに済んだことを思い出して、私は変な人間なのだなと認識した。
15時過ぎ、帯広から釧路まで続く根室本線に乗った。一両編成の小さな電車は、この辺りに住んでいる人ばかりが乗っているようで、皆眠っている。私はまだ白い景色に見慣れずに、流れる景色をぼうっと見ている。
川の近くには動物の足跡がたくさん行き交っていた。動物の足跡は人間のものと違い、一直線に続くので綺麗で音がない感じがする。
東に向かうほど降雪量が増えて、屋根の雪の厚みが増えていった。もうすぐ16時になる。太陽は傾いてきて、橙色を含んだ白い光が雪の上を照らしている。
今朝のニュースで北海道のアナウンサーが、最近は日が伸びたと言っていた。雪の大地に、徐々に春が近づいているらしい。
途中の池田駅で35分停止します、とアナウンスが聞こえ、聞き間違いかと思ったが本当だった。17時を過ぎると再び道の途中で電車は停止し、その間に少し眠ってしまった。
海に出た頃には陽は落ちていて、真っ暗な窓が車内を反射している。顔を近づけて自分の影を見つめると、辛うじて海が見えた。遠くの山の雪も見えた。
始発の帯広駅から終点の釧路駅まで乗っていたのは私だけで、男女様々な人が少しずつ降りては乗ってきた。皆、雪の街へ消えていく。
夜、飲み屋街にある喫茶店に行った。小さい子供にデレている年寄りの甘ったれた声を聞きながらパフェを食べている。
2023/2/16 遠いもの
朝起きて身支度を済ませると、昨夜寝ていたベットに少し好感を抱いていた。9時頃にドミトリーを出て、喫茶店に行く。入り口のそばにあるテーブル席に腰掛けて、モーニングを頼んだ。トーストと目玉焼きとベーコンにキャベツの千切り。苦めのコーヒー。大きなお皿は、2枚とも花柄。
駅のコインロッカーに荷物を置いて、1時間ほど博物館まで歩く。今日は昨日に比べて風が弱いけど、1度あるかないかくらいで、風が吹けばマイナスになる。
古本屋に寄って、大通を歩くと川に出た。河口に港がある大きな川で、表面は氷り、所々が割れている。それが河口まで広がる様子はすごかった。風に揺れてそれらがくっついたり、離れたりするのを見ていた。
そこから高台の市役所や住宅街を通り、博物館までのバードウォッチング用の雪道を歩いた。もう滑らないところと滑るところの区別は付いてきたが、気を抜くと滑る。
道の右側にある大きな池は凍って、その上に雪が降り積もっていた。動物の足跡や人間のような足跡が見える。その奥は高台の住宅地で、そのもっと奥は海だった。
白くて広い大地がすぐ側にあるのは不思議だった。歩いてもそれらは不動で、私の顔の向きによって光をキラキラと反射させる。
カサカサとした稲科の植物が風と触れ、その影が白い地面で揺らめいた。なんとなく、遠いものだと思った。すぐ近くにある草も雪も何にも触れられないような感じがした。
博物館の中は、雪に慣れた目のせいで黒く滲んで見えた。受付という文字をなんとなく認識して、お金を払う。イトウ。何十年も生きる大きな魚。湿原の主。1時間ほど滞在してバスに乗って駅に戻った。
この街は、雪の中に人間の生活があるみたいで、電車に乗って街を少し離れれば、自分が電車に乗って温まっていることを不思議に感じる。今日の釧路発網走行きはほとんど満員だった。
汽車は結構な頻度で汽笛を鳴らす。その度に私の窓側へ鹿がぴょこぴょこと避けていった。山、几帳面に枝に積み重なった雪を見ていた。木が雪の重さで折れていたり、弛んでいたりする。
目的地まで20分。外では、綿毛のような軽い雪が降っている。夏に来たときと同じ場所なのに、何故か少し怖くて緊張していた。絶望とも希望とも言い切れない少しの緊張を含んだ嬉しさを、北の地に感じる。
夜、人と合流して家主のいない大きな家に泊まった。暖かい。
2023/2/17 弱酸性
斜里の農家さんの車に乗って、朝早くからみんなで家を出た。白い雪道を下って、屈斜路湖の近くにある川湯温泉や湖を見た。
湖はお湯が流れている手前の方以外は全て凍っている。たくさんの白鳥が眠ったり、水辺に浮いていた。近付くと、それらは長い首を上下に振ってお辞儀しているような動きをした。人に慣れている。
その後は近くのビジターセンターからスノーシューを履いて森を歩いた。初めてのスノーシュー。道のない全てが雪のおかげで道になっている。少し歩いた後は、近くの硫黄山に行ってクリオネキティのキーホルダーを買った。
その後は阿寒湖。分厚く凍った湖に人々が小さな穴を開けて公魚を釣っていた。その横ではジェットスキーのようなものが動いている。空いた穴に足を突っ込んでみると、膝下くらいまで氷が張っていた。
ゆらゆら雪道を走りながら、川湯温泉まで戻って酸性の強いお湯に入る。この白い山や街の底にあるお湯が、塩っ辛いのは少し不思議な感じがした。夕飯はフォーを食べて、隣にあった神社に2円だけ入れた。
夜はウトロの夫婦と合流してみんなで人狼をした。最初、市民だったので呑気にパリパリ昆布を食べていたら、怪しまれてみんなに殺された。その後は人狼になって勝った。最後は騎士で占い師を守った。
2023/2/18 料理
朝、ウトロの夫婦と一緒に車屋さんに行って、彼らが車検の手続きをするのを待っていた。店のおばさんの話が長いのを、後部座席に横になりながら何となく聞いていた。
その後、原生花園に流氷を見に行って、2人に煽られながら流氷を歩いた。この分厚い氷たちは、遠い海から来た。見たことのない遠い場所で少しずつ固まって、グラグラと長い時間をかけてここまで来たのだろう。そんなものに乗っている。
昼は知床クラブでチキンソテーピラフを食べた。この謎ピラフが美味しい。どうやって作られているのか知りたくない味がする。
その後は、夫婦たちが改造中のアジトに行った。自分の行なっていることとの規模が違いすぎて、彼らの大きさがよく分からなくなる。すごいなあと思いながら、煙草を吸った。
博物館に行ってぼうっとして、スーパーに行った。魚や野菜、酒を買って、家に帰った。料理が好きな私を含めた3人で、細長いキッチンに立って、各々好きなことをした。
氷の入れた白ワインをちびっと飲みながら、体の動くまま楽しんだ。人とやる料理は、音楽に近いと思う。言葉にできない。それで疲れてしまって、みんなが食べている端でちょっと横になった。煙草が美味しい。
2023/2/19 朝
7時30分くらいに起きて、キッチンの掃除をした。他人の家でも、朝という感じがする。珈琲を淹れるとみんなが起きてきて、昼食の準備をしながら朝食を人と一緒に作った。
美味しいけど、旅の不規則な食事のせいで胃袋が小さくなっている。ご飯が多かった。昼前にみんなで家を出て、温泉に行った。この家は昨日からお湯が出なくなっている。久しぶりの斜里温泉は熱くて、ぬめぬめしていた。
その後、斜里とウトロの間の山に入った。先頭を夫婦が銃を持って歩いている。彼らは鹿を狙っていた。私は、少し緊張していたが徐々に気が緩んで、地面に落ちた種や木を拾いながら彼らの後をついていった。
昼頃、雪に穴を掘り、周囲の倒木で焚き火をしてパンとマシュマロを焼いた。リュックに入れてきた温かい珈琲を飲むと酷く安心する。
その後は斜面を登って山の尾根まで進んだが、道中でなにか左足の付け根が痛くなって、足を上げるのが億劫になった。
その状態で少しぼうっとすると、皆んなはすぐに雪と木々の中へ消えていった。静かに踏み荒らされた雪道だけが残っている。
雪が音を吸収するせいで、山の一部になることが夏よりも簡単だった。木、鹿の糞、鳥、冷たい風、落ちかけた太陽。1人、気にかけてくれる人が木々の間にちらついて、帰らなくちゃと思った。
2023/2/20 1人
人といる日々が経って、今はウトロから出た高速バスで札幌を目指している。車内は異常に暑くて足が蒸れた。
北海道を東から西へ横断するような道中は、吹雪いたり、晴れたり、曇ったり、また吹雪いたりしている。その中で起きたり、眠ったり、音楽を聞いたり、本を読んだりしている。外の景色に感化されているみたいだった。
今は白く吹雪いて、遠くが見えないどこかの道でこの日記を書いている。
北海道に着いてからの1週間目で、ようやく雪に目が慣れてきたらしく、雪の景色をぼうっと眺められるようになった。最初は寒々しく感じていた街並みも、今は数日間の思い出が溢れてきて、あまり冷たさを感じない。
雲の奥から光る太陽は、上空でたくさん反射して大きく霞んでいた。そんな光が地上へ落ちて、雪がのっぺらと輝くのはまだ見慣れなくて少しびっくりする。何でも美しくしてしまう幻影だなと思う。
16時30頃、札幌の時計台前広場で降りた。ホステルまで10分ほど歩いただけで、リュックの上に雪が2センチほど積もっていた。
チェックインした後は、二段ベットの上段に滑り込んで横になった。他の部屋の人の声も天井の隙間から聞こえる。何故かそんなものや狭い天井に安心した。それから暫く動けなくて、疲れていると思った。
19時になってシャワーを浴びて外に出る。せっかくなので古着屋に行こうと思ったが、辿り着くほどの物欲がなかった。
街では日本語とそれ以外の言語が半々くらいに聞こえて、雪は止んだり降ったりを繰り返している。
前にも行ったことのあるすすきのの喫茶店に入った。フレンチコーヒーと煙草。以前来たときは、風俗関係の店員が仕事をバックれた誰かのの話をしていた。
そのあと、歩いて近くのラーメン屋に行って豚骨系のものを食べた。客は若い男性が多い。ご馳走様と言えなかった。音楽を聞いて眠る。
2023/2/21 喫煙ルーム
昨日と今日は1日1食みたいな生活をしている。飯時に移動中なこともあるが、移動をしているおかげで意識が曖昧になって、特別エネルギーを使わないので水と飴とコーヒーで足りる。
今日は朝7時に札幌を出て、バスで函館の五稜郭駅に向かっている。知らないパーキングエリアに止まったバスの中でこれを書いている。
変な考えが体を支配していて何とも言えない気分だった。意図的に行なっているのでたまに自虐的になるけど、多分くだらないことだと思う。日の当たる青い椅子に溶けるように座っている。
少し眠っていたら、函館に着いていた。五稜郭駅前で降り、またバスに乗ってフェリーターミナルに着いた。
リュックにつけていた木のパーツでできた狐のキーホルダーは、気づいたら足だけになっていた。悲しい。売店で瓶のガラナと黄色い狐の巾着の飴を買った。
晴れていた空は、いつの間にか見事に吹雪いていたが、出航すると日差しが見えて雪が止んでいた。雪国の天気はよくわからない。
出港した港を見る。曇り空と海の滲んだ境界を眺めていると、いつの間にか眠っていた。ゴーッと船の動く音を聞こえる。
18時前、フェリーが青森港に着岸した。徒歩乗船の人たちはみんな車などに乗って消えていき、私は1人で近くのバス停まで歩いた。歩道が除雪されていなかったので、車道の端を歩く。
人が歩いてない道でバスを待った。少し遅れて来た知らない街のバスは、無機質だけどどこか優しい感じがする。
ホテルでチャックインをすると、4階の喫煙ルームだった。部屋に入って煙草を吸うと、気力がなくなって水を飲んで横になった。柔らかいベット。
北海道を出てから徐々に気が抜けているようで、ずっと水に沈んでいるみたいに何も考えられない。薄着のまま、暖かい布団の中で眠る。
2023/2/22 ゆらゆら
朝9時頃に起きると、ベットの上で煙草を吸った。窓から差し込む光が、もくもくとのぼっていく煙を揺らしている。今はどうにもこの煙が体に悪いと思えなかった。
街を歩くと、晴れている中で雪がちらちらと降っている。雪はとても軽くて肌は濡れないので、本当は見えないものなんじゃないかと思った。それくらい晴れている。
気が抜けた回らない頭で冬の東北を彷徨って、昼頃に八戸に着いた。駅の目の前にあった食堂に入る。
長いカウンターには夫婦らしい人がいて、店主は料理、女性は配膳や盛り付けをしていた。カウンターに座り、生姜焼き定食を頼んで彼らを見る。
大きなカツが3枚揚がり、2つはカツカレーに、1つはカツ丼になった。最後に私の生姜焼きが焼かれる。歳をとった店主の、腕の内側の赤い油の跡が好きだった。
生姜焼きは焼肉のタレのように生姜ニンニクが効いていて分厚い。一緒に焼かれた缶詰のパイナップルは不思議な味がする。
店を出て、歩く途中に見つけた神社で煙草を吸って、とぼとぼとダーリーズで温かい珈琲を飲んだ。よく分らない風体で椅子に座っている。
何をするわけでもなくこの街にいるのは、意味が分からなくて結構好きだった。観光でも仕事でもない曖昧な目的で、ただそこにいる。
ただ栃木の家に帰るだけだったから、道中は欲張りに何かを見ようとか買おうと思わない。そんな自分の気楽さに、生きていることが結構肯定された。
本八戸駅から乗り換えて、盛岡行きの電車に乗った。青森市や八戸の街は歩道にも雪が重なって北海道との違いをあまり感じなかったが、電車で見える街並みは大分変化が出てきた。
木は広葉樹が増え、畑の区切りが小さなものになって、広大な風景というよりは山中の農村になっている。家の屋根にも雪はあまり積もっておらず、川はきちんと流れている。
しかし、ふと雪の白さにハッとして、やはり遠いはっきりしたものだと気付いた。両側に大きな山があって、左側の山には7つ、白くて大きな風車が回っている。
夕方、盛岡に着いて近くの温泉に行ってからネットカフェに入った。眠る前に、怒涛の日記更新を何故か行っている。
2023/2/23 祝日
8時にネカフェを出て、近くにあるドトールに入った。本を読んでいたが、自分の日記が一体どんなものか気になって読んだ。よくこんなに書いたなと思う。
今日が祝日だと、盛岡から乗ったバスの中で知った。自分が曜日や日付から抜け出してしまって、少し浮世離れしていることを知る。
3時間ほどで着いた仙台は全く雪がなくて、人々は軽やかに祝日を生きていた。平日の人がいない街を縫い歩くのとは全然違う。爛々とする人々の目の隙間を通るように、大きな荷物で街を歩いた。
3月になったら、北陸の海沿いを車で走ろう。適当に入った地下にある喫茶店で、太い麺の塩パスタを食べて、美味しい珈琲を飲んだ。
16時過ぎに福島に着き、宿にチェックインした。ちょっと居心地の悪いドミトリーを予約してしまったので、眠くなるまで外にいることにする。
適当に神社に10円を入れて、喫茶店に行った。カタコトの女性が淹れてくれた珈琲はちょっと薄かった。
雪がなくなるにつれて、自分の家が近くなる。そう思うと一気に気が緩んで、電車も街も当たり前の風景に変わった。ここ1週間ほどは雪のない景色を見なかったから、急に季節を飛んできてしまったみたいだ。
けど、北海道の雪の中で白樺の小さな種子や楓のプロペラのような種を見た。それらの種たちが雪の間に埋もれて、寒さにじっと耐えている。
それはまるで春がそこら中に散らばっているようだった。足元にも木の上にもたくさん。みんな少しずつ準備している。私も春の準備をしたい。車での制作をきちんと始めよう。
夜、喫茶店はどこも閉まっている。福島市内の路地にはポツポツと電気が灯り、居酒屋やスナックが店を開いていた。良さそうな居酒屋に入ってお酒とご飯を食べた。愛想をよくしていたら、女将さんが色々とおまけしてくれた。メバルの煮付けが美味しい。
その店が当たりだったので、調子に乗って近くのカラオケスナックに入った。入ったときに、店に立っている女性の娘が来たかと思われてすごい驚かれた。
表情の優しい人たちの間に入って、濃いハイボールを飲みながら、歌謡曲を歌った。訳がわからなかったけど心地良かった。
24時くらいになったので会計をしたら2000円ほど足りなかったが、学割だと言っておまけしてくれた。赤いリンゴをもらう。
店を出るとき、一緒に歌ったお婆さんが見送ってくれて、その人がとても親しい人に感じたのが不思議だった。
人のいない夜道をりんごを食べながら歩く。結構酔っ払った。ドミトリーの二段ベットに体を滑らせて、上着もジーパンも履いたまま眠った。
2023/2/24 朝湯
朝6時に目が覚める。昨日の酒がまだ残っていてほろ酔い状態だったが、福島駅から飯坂線に乗って終点の飯坂温泉駅に向かった。
昨日の居酒屋の女将さんが教えてくれた。そこの温泉は朝6時からやっているので、明日行きなと言われたので、素直にそれに従っている。
短い電車は、住宅街をすり抜けるようにくねくねとゆっくり走る。ぼうっと登っていく朝日を見ていると、終点に着いた。
人気のない温泉街の緩やかな坂を登って、鯖湖湯に行った。200円。ドライヤーや石鹸など何もない。広い脱衣所と1つの浴槽は仕切りがなく繋がっていて、天井が高い。
湯気の立ち上る静かな浴槽に1人、酷く腰の曲がった老婆がいて、妖怪のようだと思った。重いリュックをどんと置いて、風呂に入る。カランがなかったので、よく分からないけど手桶でお湯を掬って体にかけた。
熱い。湯船に出たり入ったりを繰り返して、白い日に当たる湯気を眺める。その間に老婆は少しずつ身支度を終え、私に向かって何か一言を言って帰った。
酒かお湯のせいか分からない体調を感じながら、しばらく薄着で身支度をしていたら見事に風邪をひいた。微妙に濡れた髪の毛。
寒さと頭痛のようなものを抱えて何とか郡山まで出て、そこからは新幹線で帰る。本当は知床からずっと在来線で帰りたかったけど、もうそんな体力はない。
新幹線の快適さと捉えきれない風景を眺めながら、ゆっくり移動することはすごいことなんだと感じた。
2023/2/23 上野公園
北海道から帰ってきた金土日は、鼻水が出続ける風邪に当たってしまってずっと寝ていた。風邪薬のおかげで頭がぼうっとして少し気持ち良かったけど、口呼吸は乾燥して辛かった。
月曜日は、車に色々荷物を乗せて神奈川の方に仕事で行った。実物があると、色々と話が進んで楽しい。
その後は首都高に乗って上野に向かった。羽田空港あたりを通ると、飛行機が白く光りながら降りてきていて、ぶつかると思うくらい近くに見えた。また、ビルの間をクネクネと曲がりながら、新橋辺りで新幹線と並走した。都市の風景はいつも嘘みたい。
上野に車を停めて、地下にある喫茶店でカナダから帰ってきた友人と会う。半年ぶりに会ったが、昔の私みたいな髪型をしていたので笑ってしまった。
ぽろぽろと話したいことを話しながら上野公園を歩いて、銭湯に行って、町中華を食べた。
2023/2/28 ピース
祖母が倒れて1ヶ月。祖母の家に1人でいることが徐々に慣れてきた。今月の半分は北の地にいたけど、そのおかげもあると思う。
不安定だけど決心のある人々に会って、自分のやることや好きなことが少し分かった。そうすると、祖母への感情や家が持つエネルギーに負けないで、自分を保つことができる。
今日は昼頃に家を出て、夕方に新宿で人と会う。その人とはよく新宿で会う。何となくお互いそれが気が楽なのだと思う。
いつもの東口の喫茶店じゃない西口の店で会って、タイ料理屋ですごい量の食べ物を食べた。その後はいつもの喫茶店に行って、濃い珈琲を飲む。
その人はもうすぐ岡山に帰るというから会ったけど、まだ家が決まってないらしくて本当に引っ越すのかよく分からない。ラオスに行くという本当か嘘かも分からない約束をして別れた。